それじゃあ同じように、美人でなんでも出来る林田夏美がもてるのだろうか。
その謎を追求すべく、わたしは放課後戸川に聞いてみた。
「そうだね」
即答だった。
「何?二宮はもてたいの?」
にやりと笑って戸川が聞いた。
怒るのも面倒くさかったから、首を横に振ってその場を去った。
なるほど。まぁ、わたしの理想の女性像は確かに林田さんだが。
クールで秘密主義の戸川が即答するとは、びっくりだ。
わたしはみんなほど、戸川が好きではない。
戸川がリレーで一番であっても、戸川が誰もやらない花壇の手入れをしている姿をみても、戸川が昼休みサッカーをしている姿をみても、クラスの友達ほどには盛り上がる事ができない。
クールだと、友達は言う。優しいと、友達は言う。かっこいいと、クラスの女子が言う。
わからなくはない。確かにかっこいい部類であることは確かだ。それは認めよう。
だが、しかし。彼氏にしたいとは思ったことがない。なってほしいとは思わない。
自分には分相応だと思う。
戸川とわたしが並ぶとする。あぁ、考えるだけでもぞっとする。
わたしは欠点のない完璧な姿の戸川を間近でみて、焦ると思う。
自分は、どうしてこんな姿なのだろう、と。
焦って自分を見失うなんて恐ろしい事、自分からしたくはない。そこまでわたしはまだ人間が出来ていない。だから、戸川はわたしの理想の彼氏では決してない。みていると、胸がチクチクする。
ちなみにわたしの理想は、お互いにお互いの欠点をフォローしあえる男子。いるのだろうか、そんな人。特に捜し求めてもいないが。
そんなことを考えながら家路につくと、後ろから陸上部仲間の山岡が走ってきた。
「二宮、一緒に帰ってもらってもいいか?」
「・・・別に構わないけど」
山岡の顔は、変に強張っていた。
あの時と同じだ。
心の中で察して、とりあえず並んで歩くことにした。
「何かあったの?」
山岡はびくっと肩を揺らす。わかりやすい奴なのだ。
優しくて、単純で、お人よし。頭はそこそこ悪いが、憎めない奴だ。
「・・・二宮はさ、林田のこと、どう思う?」
わたしの質問の答えにはなっていないが、まぁいいだろう。
「ふむ、まぁわたしが男だったら間違いなく惚れているでしょうな」
山岡の顔が赤くなる。とことんわかりやすい奴だ。
「好きなのね」
「ふられたよ」
真っ赤にした顔を、歪ませないようにしているのだろう。山岡の顔は醜いほどに引きつっていた。
見ているこっちが、悲しくなるくらい。
「泣いてもいいよ」
いった瞬間、山岡はぽろぽろと涙を流し始めた。下唇を噛んで、俯き、肩を震わせて。
周りの人に、どう思われても良かった。
完璧に見える林田さんは、こんなに良い子を泣かせてしまうのだ。
わたしは山岡の背中をゆっくりとさすってやった。
「二宮だったら、泣いてもいいって、言ってくれると、思った」
しゃっくり混じりの泣き声で、途切れ途切れになりながら、山岡は言った。
山岡が地区予選に落ちたときに、同じように背中をさすってやった。
やっぱりあの時も、顔を強張らせて近づいてきて、こんなふうに顔を赤くして、下唇を噛んで、俯き、肩を震わせて。
「俺は、恋には向いてないんだよ」
「違うわよ。あなたが恋に向いていないんじゃない。
たまたまこの恋があなたに向いていなかったのよ。
あなたは、あなたにあった恋があるわ。」
山岡は涙で濡れた顔で、ふっと笑った。
「ありがと」
なんて真っ直ぐな奴なんだろう。林田さん、もったいないことしたと思うよ。彼をふるだなんて。まぁ彼女にそう伝える勇気はないけれど。
落ち着いてきたのか、いつの間にか止まっていた足をゆっくりと動かし始めた。
わたしも彼の速度にあわせて歩く。なかなかのスローペースだ。
「告白したの?」
言った後に後悔した。なんて思いやりのない言葉だろう。
しかし、山岡はふるふると首を振った。
「告白していないのに、振られたの?」
弱々しく、首を縦に振る。
「林田さん、戸川と付き合ってるって聞いた」
ふーん。
顔は冷静、言葉は無頓着なものを選んだ。
「初めて知った」
「俺も」
お似合いのカップルだ。素敵過ぎるな。互いをみあっても、焦る必要がない。
無言のまま、山岡を家まで送り、自分の家を通り過ぎて近所の公園に行った。
動揺していた。
わかっている。戸川とわたしはつりあわない。彼に惚れてもいない。
だって放課後話した時に、ときめかなかった。普段も、彼をみていて、ときめくことなんかなかった。
違う、なんだ、この矛盾。
ブランコに乗る。さびたくさりが、キィキィと寂しげな音を奏でる。
頬を撫でる風が、涙を冷やした。
泣いている。戸川と林田さんが付き合っていると聞いて、わたしは悲しんでいるのだ。
矛盾。そうか。
わたしは、いつだって戸川をみていたのだ。
リレーで一番だった姿も、花壇の手入れをしている姿も、サッカーをしている姿も。
無意識に、視線がアイツを追っていたのだ。
景色が、上下にゆれる。
鉄棒が、視界から入ったり出たりを繰り返す。
なんて感情に鈍い女なのだろう。
わたしは、戸川が好きだったのだ。
自分には到底無理だとわかっていても見ていたから、胸がチクチクしていたのだ。
始まった恋が、いきなり終わりを告げた。
ブランコの上に立つ。スカートの中は丸見えだろう。でも誰もいないからいいか。
空が近づく。涙がこぼれる。飛行機が一本の雲をつくる。
勢いのついたブランコを力いっぱい蹴って、わたしはとんだ。
涙は全部、風が拭ってくれた。
大丈夫だ、恋という感情を覚えた。戸川と林田さんに感謝だ。
わたしの恋は、これからだ。
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